●イントロ
(VTR)
先週の土曜日、スペースシャトルアトランティスが、アメリカのケネディ宇宙センターから打ち上げられました。1981年から30年、135回目、シャトル最後の打ち上げでした。スペースシャトルは、アメリカのみならず、人類全体の宇宙開発を大きく切り開いてきました。日本にとっても7人の宇宙飛行士を誕生させるなど、大きな成果を生む一方、有人宇宙開発の難しさという教訓も残しました。シャトル計画の終了は、今後の世界に大きな影響を与えます。今夜は、スペースシャトルが築き上げた歴史と、教訓、そして今後の課題について考えたいと思います。
●シャトルはなぜ誕生したか
スペースシャトルはどのように誕生したのでしょうか?
半世紀前、米ソが展開した、激しい宇宙開発競争の後、単に人間を送ることのみを争うのではなく、宇宙で何をするのかが問われはじめ、アメリカは、アポロ計画の経験を生かして、専用の宇宙ステーションを建設し、ソビエトと対峙しようとしました。人間と大量の荷物を運ぶ必要があり、そこで登場したのが、地球と宇宙を自由に行き来できる、新しいタイプの宇宙船スペースシャトルでした。
しかしその後、ベトナム戦争で財政赤字となり、シャトル計画は進めるが、宇宙ステーションは、欧州、カナダ、日本など西側諸国と組んで開発することになりました。その後、ソビエトが崩壊し、ロシアが参加してくることになり、国際宇宙ステーションの性格が大きく変わる中で、シャトルは国際社会全体に貢献する役割を果たすようになりました。
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● シャトルが残した成果
スペースシャトルが残した成果とは、何でしょうか?
一言でいうと、「本格的な有人宇宙時代を切り開いた」ということです。
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シャトル5機の航行距離を合計すると、月と地球を1095回往復した計算になります。今まで、宇宙飛行をした経験者は、世界で、のべ1165人ですが、その7割がスペースシャトルで飛んでいます。また、シャトルは、16トンもの荷物を運ぶ能力があり、上空400キロに、人類初の国際宇宙ステーションを完成させ、人間の長期滞在を可能にしました。その結果、日本人も含めた、宇宙空間での医学データや、新素材、薬の研究開発にも道を開きました。その様子は、映像によって全世界に配信され、宇宙が身近になった印象を、人々に伝えました。
● シャトルが残した教訓と課題
スペースシャトルは、なぜ飛行を終えるのでしょうか?
シャトルの最大の特徴は、人間と大量の荷物を同時に運び、頻繁に宇宙空間と地球を往復し、機体を再利用することで「安く、安全な」宇宙開発を目指すことでした。しかしその特徴が裏目に出る結果となりました。
一つ目は、「老朽化」です。
計画がスタートした時、シャトルは年間50回、ほぼ毎週打ち上げられ、1995年までに国際宇宙ステーションが完成するはずでした。しかし実際には、宇宙空間での機体の損傷が激しく、複雑なシステムを修理するのに手間取り、1年で、多くても9機打ち上げるのがやっとという状況に陥りました。結局、国際宇宙ステーションの完成は16年遅れの今年となってしまいました。この30年で、シャトルを支える電子機器やシステムも古くなり、今後の使用は、もう限界だといわれるようになりました。
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シャトル終了の2つ目の理由は、「2度に及ぶ重大事故」です。
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スペースシャトルは、1986年のチャレンジャー事故、2003年のコロンビア事故の二つの悲劇を生み、14人の宇宙飛行士を失いました。実はこの事故の原因には、シャトル独特の設計が関係しています。
有人宇宙飛行の場合、本来は、人間が乗り込むカプセルはロケットの先端部分につくりますが、シャトルは重量が重く、外部燃料タンクに、しがみつくような形で取り付けられています。しかしこれでは、打ち上げのとき、はがれおちる断熱材や氷を、直接受けることになります。実際、コロンビア事故では、外部燃料タンクからはがれおちた断熱材が、シャトルの左翼にあたり、それが原因でできた穴から、帰還時、高温の大気が入って、墜落事故に至ったのです。シャトルの2度にわたる事故は、打ち上げ計画を大幅に遅らせ、その結果、老朽化を、さらに進める原因ともなりました。
シャトル終了の3つ目の理由は「コスト負担が増大し、国家財政を圧迫」したことです。シャトルのように、人間が荷物と同じ機体にいる場合では、機体すべてに、高度な安全基準を適用しなければなりません。機体の老朽化が進むと、メンテナンスの経費は、雪だるま式にかさみます。
シャトル計画が始まった1971年ごろ、シャトルの一回当たりの打ち上げ経費は、1050万ドルと見積もられましたが、結果的には1回当たり、4億5000万から8億6000万ドルに膨れ上がり、アメリカの国家財政を圧迫する大きな要因となってしまいました。
● どうなる世界の宇宙開発。日本は?
シャトル引退後の、世界の宇宙開発はどうなっていくのでしょうか?
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まず、国際宇宙ステーションに、人間を送りこめるのは、ロシアのソユーズだけになります。その結果、ロシアの存在感が増すことが予想されます。アメリカがロシアと結んだ2007年の契約では、宇宙飛行士を運ぶために支払う金額は、1人39億円でしたが、今年の契約では51億円に引き上げられており、ロシアの発言力が、増し始めていることを示しています。
アメリカのオバマ大統領は、今後の宇宙開発について、国際宇宙ステーションへの人間や物資の輸送は民間が、月や火星、小惑星など、遠い宇宙への探査は、NASAが行う方針を打ち出しています。
国際宇宙ステーションへの運搬については、アメリカの民間会社の無人宇宙船「ドラゴン」と「シグナス」が行います。しかし両方とも開発が遅れ、宇宙ステーションに物資を運ぶのは来年にずれ込み、人間を送り込むめどはまだたっていません。
もう一つの、深い宇宙の探査については、NASAは、2030年代半ばまでに火星に行くための「多目的有人宇宙船MPCV」を計画していますが、打ち上げ用の大型ロケットなどの全容が決まらず、検討が続いています。アメリカは、アポロ計画以降、宇宙に人間を送り込む手段を持たない、初めての時期を迎えます。そして、この状況を一刻も早く乗り越え、宇宙開発のリーダーに復帰することを模索しています。
一方、欧州とロシア、そして中国やインドなど新興国の宇宙開発は急ピッチで進み、世界の宇宙開発は多様化の方向に向かっています。なかでも中国は、2003年に神舟5号で有人宇宙飛行を成功させたのち、独自の宇宙ステーション計画を進めるなど、存在感を増し、世界の宇宙開発のバランスに影響を与えています。
このような状況の中、実は日本にとっては、チャンスが訪れています。
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これは、日本が開発した、宇宙ステーション補給機「こうのとり」です。シャトルに代わって、大型の荷物を運べる唯一の宇宙船で、2009年と今年、飛行を成功させ、そのレベルの高さで、世界の注目を集めました。この「こうのとり」は、有人宇宙船につながる技術的特徴も持っているため、日本は、これを足掛かりに、今後の宇宙開発を大きく発展させることができる可能性もあります。日本にとって、世界の宇宙開発競争の中での地位を固め、将来の姿を決める重要な時期がきているといえます。
●まとめ
さて、最後のスペースシャトルアトランティスは、あと8日の飛行ののち、日本時間7/21(木)に地球に帰還します。
スペースシャトルは私たちに何を示したのでしょうか?私は、有人宇宙開発が持つ、光と影の存在ではないかと思います。
人間が、宇宙空間というフロンティアに進出し、新しい活動と進歩を遂げる「光」の華やかさと可能性。しかし一方で、機体に深刻なダメージを与える宇宙空間の手ごわさ、国家財政にまで影響を与える、有人宇宙開発の恐ろしさ、それら全てのかじ取りのむつかしさも見せつけたともいえます。
私たちは今、シャトル30年の歴史を通して、世界、そして日本にとって、宇宙開発とは何かを、もう一度考える時を迎えているといえるのかもしれません。
(室山哲也 解説委員)
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